幼少時代〜寺は絶好の遊び場だった〜

生まれ育った家は寺だった。

遠くまで田んぼが広がり、坂道もなかった。
木造瓦葺きの本堂は江戸時代に建てられたと言われ、
修理を重ねてきたが。
あちこちに不具合が目立っていた。
大雨が降れば雨が漏り、天井板や壁に染みをつくった。
古い雨戸は生半可な力では閉めることができなかった。

そんな本堂は、小さな頃からの遊び場だった。
棚干しは平均台になり、かけっこで畳をすり減らし、
縁側でひなたぼっこをし、木魚や鐘をたたいて鳴らした。
遊び疲れるとそのまま所構わず眠ってしまった。

仏様に足を向けて大の字で。

少年時代〜建築家への第一歩〜

10歳の頃、なぜか思いついて、家の間取りを描きだした。

何かと不便で危険な家だったので、
ああしたい、こうしたいという思いはたくさんあった。

何枚も描いては消して、描いては消して、
気がつけば真夜中ということもよくあった。
大工さんが家を建てていれば、ずうっと眺めていた。

とにかく楽しかった。

近所の法事の手伝いで本堂の隅々まで畳に雑巾をかけ、
座布団を並べ、食事のときはお茶を注いてまわらされた。

でも、いつの頃か人前に出るのが嫌になり、
まったく手伝いもしなくなった。

もう、本堂で遊ぶこともなくなった。

ちょうど、小学6年生になる頃だった。

青年期〜幾つもの迷いから出した結論〜

その後、まっすぐ住宅設計の仕事を目指したわけではない。

相変わらず家をはじめとする建築に関心があったが、
ああなりたい、こうなりたいという思いもたくさんあった。

そして巡り巡って巡りついたのは、家だった。
あんなに楽しかった住宅設計だ。

やがて、あるハウスメーカーにおせわになり、営業や設計の経験を積んだ。
南から北まで気候の違いや、家に対する考え方、住まい方の
違いなど多くを学ばせてもらった。

次に、設計事務所にお世話になり、施主さんや職人さんとより
深く付き合い、色んな角度から家づくりを考え直し、試行錯誤を重ねた。

確かな手ごたえがあった。

現在〜カフェ経営を通じて思うこと〜

そして今、

コーヒーを淹れながら住宅設計と住宅再生という仕事をしている。

「カフェのマスター」も小さな頃から思い浮かべていた…
家の設計はいつまでたっても飽きない。

店はとてもリラックス、そしていつもの笑顔、新しい笑顔。
背中でお客様のおしゃべりを感じながら、間を取る日々。

家づくりに携わるようになって、ずっと気になっていた。
遊んで、眠った本堂。

きりっとしていながらおおらかな子供の天国。
いつもイメージの先にあった。

のびのびできたあの場所。
包まれるように安心できたあの場所。
いつもそんな家をつくりたいと思っている。

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